早来地区義務教育学校の教育目標
開校準備委員会という会議において、新しい学校の「教育目標」というものをつくりました。
これは、この学校で過ごす児童・生徒のみなさんが「育ってほしい姿」、「学んでほしい姿勢」をことばにしたものです。
また、解説編では、このことばをつくったときのねらいが、末永く伝わっていくようにという想いからつづられています。
まだ習っていない漢字もあると思いますが、ぜひ読むことにチャレンジしてみてください。
漢字をしっかりと読める方は、ぜひこの教育目標に示される意味を自分自身の人生に置き換えて考えてみてください。
義務教育学校教育目標
生涯にわたって学び よりよい社会をつくるために
ふるさとを大切にし 自ら世界を広げる子
友だちと夢を語らい 未来に向かって挑戦する子
思いやりをもち 互いの良さを認め合う子
をめざします。
教育目標解説編
始めに
令和5年4月に開校する新しい学校の「教育目標」をつくりました。この学校で学ぶ皆さんが希望をもち、生き生きと毎日を過ごすことができることを願い、令和3年4月から9月にかけて、当時の大人が次世代の子どもたちへの願いを語り合い、話し合いを重ね、言葉と文章を整えました。
目標の一つ一つに児童生徒の皆さんへの思いが込められていますので、この解説編でその思いを皆さんに伝えます。
生涯にわたって学び よりよい社会をつくるため
人は一生学び続けます。
勉強は学校だけでするものではありません。社会に出て仕事をするときも、誰かと共に暮らし生活するときも、自分の趣味を広げるときも、常に「学ぶ」という行動が伴います。
学校での「勉強」は広い意味での「学び」の一つの形であると言えます。
そして、一人一人の学びは必ず社会とつながって成り立っています。学校はその入り口であり、学校で学ぶことはすでに「社会に参加している」ことと言えます。
皆さんがたくさんのことを学び、社会の仕組みを知ることは、将来社会で活躍するために必要な資質能力を育むと同時に、今この瞬間の社会をよりよい方向に変えていくことにもつながっているのです。
心理学者は「自分以外の人や社会全体のために自分が役立っている中に幸せが存在する」と述べます。また、そのためには、自分の夢を実現したいという願いを満たす必要があるともの述べています。
自分の夢を追い続けることを通して、社会との関係の中で生かされている自分の存在について深く考え、そうありたいと強く思い、そこに幸せを見いだすこととなります。
人が学び続け、自分の夢を社会とのつながりの中で追い求めることが、よりよい社会をつくっていく原動力となるのです。
ふるさとを大切にし 自ら世界を広げる子
人は身近な世界から体験と学びを重ねて、少しずつものの見方を広げていきます。
生まれたばかりの赤ちゃんは自分と家族の世界からスタートし、成長するにつれ、親せきや友だち、近所の公園やお店と世界を広げていきます。
現代ではテレビや情報技術の進歩のおかげで、全世界で起きていることが一瞬にしてわかる時代となりました。しかし、人が新しい知識を納得して理解し自分のものにするためには、幼い頃から自分の身体をつかって思いきり遊んだ経験や、直接人と会って話をし、仲間や地域の方と同じ場で一緒に何かをする経験が必要です。これはインターネットやヴァーチャルリアリティではまだ実現できないことです。
安平町は豊かな自然に恵まれ、皆さんの勉強に協力してくれる大人もたくさんいます。
ふるさとで身体を通して本物に触れて学ぶ知識は、皆さんの世界を広げるために必要な豊かな栄養であるとも言えます。ふるさと安平で学ぶことを通して、ふるさとの良さを知り、ふるさとに愛着をもってもらえればとてもうれしいことです。
大人になって、安平以外の地で生きていく人もいることでしょう。行った先の土地をふるさとと同じように愛し、その土地で活躍してくれる人となることを期待しています。
友だちと夢を語らい 未来に向かって挑戦する子
「自分は何のために生まれてきたんだろう」、「将来何をすればいいんだろう」・・・こういった悩みは7年生あたりから誰もがもち始め、長い時間をかけて少しずつ解消していきます。これは心が大人へと成長する際に誰もが経験することです。
昔の日本では身近なところに自分の仕事に誇りをもち、夢に向かって挑戦している少し年上のお兄さんお姉さんたちがいました。その姿をみて自分が目指す大人のイメージを少しずつ作っていくことが昔の子どもたちにはできました。
しかし、現代は違う年齢や世代の人と出会う機会が極端に少なくなり、映画に例えると、自分の生き方のシナリオを自分で書いて、自分で主演をするという「自由だけど、どうしたらいいのかわからない!」という時代であるとも言えます。
新しい学校は「世界と出会う場」でもあります。たくさんの大人が学校に出入りし、皆さんの学びに協力してくれます。その環境で、たくさんの先輩や大人と出会い、めざしたい未来や将来をじっくりと時間をかけてつかんでほしいと思います。
「自分とは何なのか」・・・これは自分の心の中だけでは解決できない課題です。
話は少しそれますが、「鏡のない世界で自分の顔を知る方法」を考えてみて下さい。そうです・・・「人に聞く」ことになります。「今朝は寝不足なので目がはれぼったく感じるんだけど・・・どう?」とでも聞いてみると、「そうでもないよ。いつもどおり元気いっぱいに見えるよ」といったやりとりを通して自分の顔のイメージをふくらませていくことでしょう。
自分の心や個性を形づくるのも鏡のない世界と同じで、相手との言葉のやりとりが必要です。自分が相手に言葉を投げかけ返ってくる言葉から今の自分をイメージし、さらには自分の考え方に自信をもったり、考え方を直したりすることで、心と個性が成長します。
こういったやりとりは、友だちとの日常の会話の中にも、そして授業においても存在しています。新しい学校は授業における「話し合い」を大切にしたデザインとなっています。話し合い活動はテーマについての知識理解を深めるだけではなく、相手とのやりとりを通して、お互いの心を成長させ、個性を形成することにもつながっているのです。
皆さんが学校に通う最大の理由はここにあります。新しくできる学校は「自分をつくる場、人として成長する場」であるのです。
思いやりをもち 互いの良さをみと認め合う子
この目標を作成するにあたり、皆さんの良いところを先生方で出し合いました。一番に出てきたのは「人にやさしい」、「思いやりがある」といううれしい言葉でした。こういった特性は学校だけでは育ちません。皆さんが生まれ育ったご家庭のほ保護者の方々や地域の皆さんのやさしさや思いやりの心のおかげです。この目標を決める段階ですでに皆さんに備わっている特長を学校で更に伸ばしたいと考えました。
SNSなどでは人の失敗や失言を大きく取り上げ、それがいつまでたっても許されない世の中になってきました。相手の心を傷つける言動や行動は許されませんが、何かに挑戦し、やってみようと思って一歩踏み出した行動は認められるべきです。挑戦するからこそ失敗できるのです。上手くいかなければ、振り返り、修正を繰り返すことでできるように成長していきます。
こういった考え方の下、学校は基本的に挑戦や行動が認められ、失敗や間違いは受け入れられる場として機能してきました。その前提となるのが、すでに皆さんがもっている相手を受け入れる寛容の心(やさしさ)です。
加えて、相手の失敗の中にも学ぶべき価値があり、尊敬できる考え方があるという姿勢は志の高い生き方です。
ここまで到達してほしい。かなり高い目標ですが、この学校で学ぶ児童生徒の皆さんならできるはずです。
終わりに
今から150年以上前の戊辰戦争(江戸時代から明治にかけての戦い)で敗れた新潟県長岡藩の話です。
戦争に負け、経済的に苦しんでいた長岡藩を救いたいと他の藩から米百俵が贈られました。しかし、長岡藩はその米を食べずに他に売却し、学校設立の費用にあてました。
教育の普及をもって藩の復興を実現しようとしたわけです。
平成30年9月、私たちのふるさと安平町は胆振東部地震によって大きな被害を受けました。当時の早来中学校校舎は使用できなくなり、皆さん方の先輩は体育館・グラウンド・特別教室がない仮設校舎で、日々の学校生活を送りました。それから4年半後、ついに今の校舎ができあがり、新しい学校がスタートしました。
新しい学校は地震に対する安全性はもちろんのこと、新しい授業の方法に対応した最新の施設が備えられました。当然、お金もたくさんかかりましたが、これは米百俵の精神と同じ大きな決断であったと言えます。
ふるさと安平町の当時の大人たちは、子どもたちの未来のために力を尽くしたのです。
児童生徒の皆さんは、新しい校舎を建ててくれた多くの人々に感謝の気持ちをもち、学びに励んでほしいと思います。
そして、その際にはこの教育目標の達成を意識してもらいたいと願います。
令和3年10月1日
義務教育学校開校準備委員会